1906 年にエリーズ(Elise)という女性からパリ在住のリディ(Lydie)という女性に宛てたポストカード。「みんなにキスを送ります(Je vous embrasse tous)」というメッセージが添えられています。
今回の写真はシュールかつグロテスクな幻想趣味のポストカードで、昔の恐怖小説のような趣があります。
ポストカードの下に金色のインクで「女の子は娘(お人形)とポリシネルを結婚させます(Madame Bébé marie sa fille à Monsieur Polichinelle.)」と印刷されています。介添人のように見える女の子はお人形の持ち主、つまり、お母さんなんですね。同じ金色のインクで少女のネックレス、ポリシネルの衣装の飾りが手描きされています。また、薄いピンクと空色で二人の衣装が手彩されています。
背景は手書きのスクリーンで、教会の入り口と通りが描かれています。
左側のポリシネル氏は花嫁に比べると些か年をとり過ぎで、満面の笑みにもかかわらず、身体は硬直気味。写真では分かりづらいのですが、皺だらけの顔に頬紅で施した様子は映画『ベニスに死す』のアッシェンバッハを思い出してしまいました。ポリシネルはイタリアの古典喜劇「コンメディア・デッラルテ」の定番キャラクター(ストック・キャラクター)の道化です。結婚式からかけ離れた奇妙な衣装で着飾っているのも納得ですね。靴を履かず、リボンで飾った足元は操り人形の不自由さを強調するかのようです。竹馬で歩くような感じになりそうです。
さて、主役の見目麗しいお人形は貞淑をイメージさせるウエディング・ドレスをまとい、目を見開いたままです。幸せそうというより、戸惑いや恐怖の相です。不釣り合いな花嫁と花婿は、道の先に何を見ているのでしょうか。
お母さん役の少女はレースのワンピースと花で飾った帽子、リボン付きの白い靴でお洒落をしています。少女だけがカメラに真っ直ぐ視線を据えて、含み笑いをしているように見える...、ここがこの写真の一番怖いところです。