小学校低学年からラジオの深夜放送を聞いていたのもこれが理由だ。夜はとてつもなく長いトンネルで、布団の中で何も出来ないのは苦痛だった。これを救ってくれたのが Sony のトランジスタ・ラジオ。ラジオが布団の中で温まるころには、小さな硬いプラスチックが魔法の小箱に変わるように思えて、イヤホンを着けたラジオを胸に押し当てていろいろな映画の話しや音楽を聞いていた。
当時の私にとって、ラジオは今のインターネットのような役目をしてくれていたと思う。好きに音楽を選べるわけではないけど、知らない世界をたくさん垣間見せてくれた。ロックの扉を開けてくれて、サイレントから新しい映画まで幅広く観ていたのも深夜放送のおかげだったと思う。
父は母との不仲で冷たくなっていた家の中に新しいものを持ち込んでは、修復に努めようとした。この Sony の小さなトランジスタ・ラジオもそんなひとつだが、私の基礎を作ったなどとは父も認識できてなかっただろうなあ。