2012/02/26

魔法の小箱

目が覚めたら12時10分だった。港から正午きっかりに聞こえるはずの汽笛さえ知らなかった。参ったものだ。子どものころから睡眠障害気味であまりうまく眠りに着けない。深夜は一番頭の冴える時間だから起きていたい時間ではある。誘眠剤はあまり効かないし、睡眠薬は時として暗闇の底まで降下して行くような感覚に陥いるせいか、寝覚めが悪いし後悔することが多く、自力で眠るようにしている。

小学校低学年からラジオの深夜放送を聞いていたのもこれが理由だ。夜はとてつもなく長いトンネルで、布団の中で何も出来ないのは苦痛だった。これを救ってくれたのが Sony のトランジスタ・ラジオ。ラジオが布団の中で温まるころには、小さな硬いプラスチックが魔法の小箱に変わるように思えて、イヤホンを着けたラジオを胸に押し当てていろいろな映画の話しや音楽を聞いていた。

当時の私にとって、ラジオは今のインターネットのような役目をしてくれていたと思う。好きに音楽を選べるわけではないけど、知らない世界をたくさん垣間見せてくれた。ロックの扉を開けてくれて、サイレントから新しい映画まで幅広く観ていたのも深夜放送のおかげだったと思う。


愛用していた 2R-21、1965 年発売だそうだから、父は発売直後に購入したわけではなさそう。こういうメタル系ではなくて、フロントは赤、バックは黒のプラスチック製だったような気がする

父は母との不仲で冷たくなっていた家の中に新しいものを持ち込んでは、修復に努めようとした。この Sony の小さなトランジスタ・ラジオもそんなひとつだが、私の基礎を作ったなどとは父も認識できてなかっただろうなあ。

抗議という名のエンターテインメント

昨年の newsweek 誌の特集で「dying city(廃れつつある町)」として紹介されたミシガン州グランド・ラピッズが、公式に抗議するために制作したビデオです。素晴らしい出来で、繰り返し見てしまいました。


市民 5,000 人が参加し、撮影のために車の通行を止めるなど、大がかりな抗議行動なのですが、平和で静かな行動です。アメリカ人ならよく知っている Don McLean のヒット曲「American Pie」を口パクさせることで、多くを語りつつも、市民は無言の抗議行動をしていることになり、アイロニーは大いに感じられます。

The Grand Rapids LipDub
http://www.youtube.com/watch?v=ZPjjZCO67WI&sns=em

朝露や

今回ご紹介するカードは Au Bon Marché のトレード・カードです。惚れ惚れするような、石版印刷の繊細さが愉しめます。

ピンクを基調に白をアクセントにしたドレスを着た女の子が、水をためた樽の側で、花を愛でています。朝顔のような花をつけた蔓植物ですけど、何の種類かは特定できません。

二羽の鳥はかなり栄養状態に恵まれているようで(笑)、顔がまるで人のよう (^^;; 少女とは人の言葉で会話していそうで、メルヒェンと言えばメルヒェンかも知れません...。微妙な二羽です。


サーモン・ピンクとモス・グリーンが基調で、グレイを加えた濁りはあるけれど柔らかな色味で統一されています。そのせいか、ソフト・フォーカスの写真を彷彿させるような効果が出ているように思えます。朝露がおりて、植物の匂いが一層強まる時間帯を見ているような気がしました。

スマートフォンのカメラなので、繊細さがお伝えできないのがとっても残念...。霧がかった幻想を導き出すほど繊細な色調のトレード・カードは贅沢だなあと、感動した一枚なんです。

2012/02/25

教育テレビは偉大

映画『Pina』を観てきました。観客が少ない上に、途中退場の方、爆睡して鼾をかいている方々など、なかなか厳しい状況の場内でした(爆)。


無理して観に行く映画ではありませんが、ダンスが好きであればそこそこ楽しめるのではないかと思います。Pina へのトリビュートなので、そもそも Pina Bausch って誰?という状態だと、前述のような厳しい状況に陥りやすいかも知れません。また、トリビュートである以上、「Pina、あなたは天才だ」という片道路線です。

3Dを観るには劇場へ足を運ばなければならなかったけど、正直な気持ちは、教育テレビか Youtube で無料で観たかった(笑)。NHK の教育テレビはこういう番組、普通に放映しますものね。ダンスはすごく楽しめました。

2012/02/24

援護射撃~その弐~

続きです。二曲目の『I fought the Law』が圧巻。何曲目か忘れましたが、スカの『Wrong'em Boyo』は珍しく Joe Strummer のボーカルが好きになれました。しかし、スタミナ切れのないこのドラミング、凄いとしか言いようがありません。しかも、正確で、アドリブがたくさん出てくるから目眩くようなドラミング・トリップ(?)が楽しめますよ~。下手くそ三人衆をきちっとリードしてるしね(笑)。


何よりも素晴らしいのは、録り直しのきくスタジオでなく、ライブでレコーディング以上のことをやってること。

The Clash Live(1980)
http://www.youtube.com/watch?v=U0xYrppLVQM&sns=em

2012/02/20

援護射撃~その壱~

またもや、Topper ネタ。1980 年に Palais des Sports で行われた The Clash のライブです。Topper が活躍した1977~1982 年は、私はまだ中学生から大学に進学する頃で、来日してもどのみちライブには行けなかったと思います。1982 年の初来日の際は中毒がかなり進行してしまい、解雇される年ですから、演奏は褒められるような出来ではなかったとか。


このライブ映像では Topper のドラムが凄すぎて、フロントの三人が木偶の坊に見えてしまいます...。私自身、パンクに興味があったわけではなく、Tommy Gun という曲のドラムを聴いて、Topper が好きになっただけで、フロント三人衆に絶えず不満がありました。なにしろ下手だよ、あんたたち(笑)。


このライブ映像は Youtube で三分割されたものが投稿されています。これを観て驚いたのが、ドラムの勢いが全く落ちないことです。168cm で華奢な身体からは想像もつかないパワーです。もともとジャズ・ドラムを独学で身に付けていたそう。ロック・バンドのオーディションではパワー不足だと言われて落ち続け、人の演奏を観察し、工夫と練習を重ねた結果、ロックに敵うドラムになったのだとか。軽々と叩いているように見えますが、凄い力強さです。上半身が揺らがさず、演奏している姿に品があるのも特徴のひとつだと思います。ベースの Paul Simonon はアドリブがきかないので、ドラムがカバーしている感じです。

それでは、Topper のドラムをご堪能ください。


The Clash Live(1980)
http://www.youtube.com/watch?v=T9I2ss5gF9c&sns=em

憂鬱なあなた

今週末は、『ドラゴンタトゥの女』と『メランコリア』 を観てきました。家では Youtube でロック三昧。土曜は The Clash、日曜は Green Day。暇な大学生のような過ごし方です。

『ドラゴン~』の方は大した出来ではなく残念!リスベット役の Rooney Mara は熱演でしたし、Daniel Craig もまあまあだと思いましたが、原作にあるドロドロした血統のいやらしさ、リスベットの根にある哀しみが伝わってこないんですよ...。脚本に問題ありって気がする。二時間ちょっとで収めるのは無理な小説かも知れません。先々週は私も壊れていましたが、DVD プレーヤーも壊れました。新しいのを購入次第、スウェーデン版の『ドラゴン~』を観る予定です。


『メランコリア』は私にとっては大当たり。冒頭の映像美からして好み。映画中程の Kilsten Dunst のヌード・シーンは惑星との交わりとも言え、とても幻想的で一見の価値ありです。破滅の前の軋みや狂いは、終末を予め感知できる者の微熱のような症状なんでしょう。惑星と交わる頃には、大きなスケールを以て、自分の小ささを推し測り、決定的な事象を受け止められるようになるのかも知れません。

ストーリーが受け入れられなくても、映像だけでも大きなスクリーンで観てください。それだけの価値はあります!誉め言葉になってないけど。もう一度観に行こうと思っています。

2012/02/15

敬愛

ようやく身体のだるさがとれました。今回よく分かったのが、私は普段からて微熱がよく出ているのだということ。暑がりの理由が理解できました(笑)。


(左から)ジョー、ポール、トッパー、ミック

子どものころ、Topper Headon の風貌が何故か怖かったのに、今見ると「怖い」の対極のルックスです。かなりの童顔(笑)。でも、ドラムは凄かった。


(左から)ジョー、トッパー、ポール、ミック

薬物の乱用が度を越して Clash を追い出されたあとに作ったアルバムは、「追い出されて良かったんじゃない?こんな凄いアルバムは Clash じゃ作れないもの...」というのが正直な感想。

当時は常用者のイメージが先に立ち、評価がなかなか付いて来なかったけど、今回じっくり調べてみたら、今は十分評価されていることが分かった。良かった。数年前のインタビューで、クリーンになって体力も戻ったけど、カムバックする予定はないそうで、音楽を目指す若い人たちを支援するなど、チャリティー活動が生き甲斐になっているのだとか。


1979 年の米国でのライブ

一枚目のソロ・アルバム『Waking Up』の最初の曲です。二曲以外の作詞作曲はすべて Topper。もともと独学で R &B やジャズのドラムを勉強したそうなので、自在にスタイルを変えられるのも強みです。この曲はファンク。

Leave It to Luck by Topper Headon(1986)
http://www.youtube.com/watch?v=2PJSOF2dhXw&sns=em

2012/02/12

ネコちゃんと全快祝い

病気ネタの先週一週間でしたが、昨日の夕方にシャワーを浴びている途中で気分が悪くなった後、数時間眠ったら、いつになく身体が軽くなり、6日ぶりに普通にご飯をとりました。一体何だったのでしょうか???


我慢してくれて有り難う♪

今回はネコちゃんにも迷惑をかけたので、昨夜はたくさん遊びました。寂しそうにしていたけど、すっかり機嫌がよくなったので、ホッ。布団の中でも嬉しそうに喉をゴロゴロ言わせて、私の手足を噛んだり、蹴ったりしながら全快祝いしてくれました。脚が傷だらけです...(^^;;

2012/02/10

Flu

昨日は不調のまま病院へ。微熱が引かず、暖房の効いたクリニックのロビーで待つのは辛かったです (^^;; 呼ばれた頃には立つのが精一杯。簡易検査の結果は、インフルエンザ(A型)で、今週いっぱいは休むことになりました。とにかく高熱が出なくなっただけでも、有り難い状況。

母に電話をして、インフルエンザはこんなに大変、高齢者なんだから気をつけるようにね!と言ったら、どうして一番苦しい時に連絡しないの?と言われました。でも、一番苦しい高熱のときって、ほぼ失神状態で眠りこけてしまうから、助けを求める暇がないんです(笑)。まあ、ピンチって、良くも悪くも独り暮らしの醍醐味のひとつですしね(爆)。これが受け止められないようでは、楽しく独身は謳歌できません。

2012/02/09

ダウン

みなさん、風邪は大丈夫でしょうか?私は、月曜の夜中から水曜の朝まで高熱を出して会社を休んでいます。39~40℃の熱が続きましたから、未だに脳が腫れている感じです... (-_-;) 月曜の夜からマカロンを半分食べただけなので、シャワーを浴びたら、途中で目眩を起こしてひっくり返るわで、風邪など引かないに越したことはありません。で、明日は出社しようと思いきや、インフルエンザじゃないことを医者に確認して貰うことが出社条件という、会社からの連絡が...。まあ、そりゃそうですね。インフルエンザの症状を兼ね備えていますから (^^;;


先程、パイナップルをたくさん食べました。子供のころから、風邪のときは、パイナップル、林檎、バナナ、オートミールです...。いやあ、安上がり(笑)。

2012/02/07

Wake-up

週末はエネルギーなし、気力なしと書きましたが、それもそのはず。昨日起床したら、思い切り発熱してました。本人も「えっ、まさか?」という感じ(爆)。バッグの中に転がっていたストナのシリーズの錠剤を飲んで、若干回復。まだ微熱は下がらず...の状態です(-_-;)

感冒薬はうとうとしますから、うとうとできなさそうな Kiss、Clash、Led Zeppelin のライブ映像を Youtube で観ていました。Paul Stanley の歌の上手さに今さらながら感心していたら、夕方に...。

暇を持て余し、メンバーの近況を調べてみたら、John Bohnum、Joe Strummer とEric Carr 以外はみんな生きていました。ひどい薬物中毒でキャリアを駄目にした Clash の Topper Headon が元気そうにしているのにはホッとしました。とっくに亡くなっているかと思っていたので...。三大パンク・バンドのうち、Clash が残ったのは、(1) 音楽をやりたかった、(2) 曲が書けた、(3) 途中でビジネス感覚が必要だと意識した、という点ではないでしょうか。Topper はドラムが上手かったし、マルチプレイヤーで、曲も書けました。要だったと思います。


トッパー・ヒードン(右)、ジョー・ストラマー(左隣)

十代から知っているバンドの近況はまるで同窓会チックだなあ(笑)。PV のドラムは Topper の後任ですが、音源の録音は解雇前だったので Topper の演奏が聴けます(パーカッション、ビアノ、ベース)。

Rock the Casbah by the Clash(1982)
http://www.youtube.com/watch?v=U4HPdWYwgyw&sns=em

(2012/02/09 追記)
こちらのバージョンは相当リミックスされていますが、リズムセクションがより楽しめます↓
http://www.youtube.com/watch?v=15FfWj11uys&sns=em

2012/02/04

沸騰点


素晴らしいクロモスを立て続けに入手しています。2月中に記事にしたいところですけど、今日はエネルギー不足で気力なし。そこで、『ふたりのベロニカ』と同じぐらい大好きなフランス映画『Diva』(ディーバ/1981)から、主人公ジュールが憧れの米国人オペラ歌手シンシア・ホーキンスのリサイタル会場で、こっそり録音しているシーンをご紹介します。そして、この演目のオペラ『La Wally(ラ・ワリー)』のアリア『さようなら、ふるさとの家よ(Ebben Ne Andro Lontana)』が事件を産みます。

主人公を演じる Frédéric Andréi(フレデリック・アンドレイ)の表情に注目を。才能に対する畏敬の念と憧れが、官能の入り交じった恋愛感情に変わる瞬間です。


線の細い俳優は青年期を過ぎると、厳しい時期に入ります。アメリカ人俳優の Denis Christopher もそうでした。Frédéric Andréi は俳優業を早くに諦めたのか、ほとんど情報はなく、監督をした数本の作品名がネットに載っている程度。

"Ebben Ne Andro Lontana" from French film "Diva" (1981)
http://www.youtube.com/watch?v=2hsmoo97CVA&sns=em

2012/02/03

時よ止まれ、君は...

今日は The Stone Roses の名曲『Waterfall』を逆回転させて歌をのせた名曲『Don't Stop』です(笑)。同じように『Elephant Stone』を逆回転させた『Full Five Fathom』も大好きな曲です。五尋の海と意味で、シェークスピアの『真夏の夜の夢』で妖精アリエルの台詞に出てきますね。


余談はさておき、『Don't Stop』はサイケデリックな曲だと思いますが、そう言えばサイケデリックな曲って定義はあるのだろうか...?

ネットで調べた限りでは、雰囲気を指すもので、こうだからこれはサイケな曲という断定はできないようです。雰囲気でよいのなら、サイケな曲で好きなものはいっぱい!と書きつつ、The Byrds の『Tribal Gathering』、T.Rex の『The King of the Mountain Cometh』、Beatles で唯一好きな『Lucy in the Sky with Diamond』、Doors のアルバム『The Doors』 ぐらいしか思い付きませんが...(笑)。


彼らの 1st アルバムは 23 年前の 1989 年にリリースされていたことに、改めてビックリ。当時も新鮮だったけど、今聴いても新鮮。しかし、この 23 年てあっという間だったな...。

Don't Stop by the Stone Roses(1989)
http://www.youtube.com/watch?v=zDHBA-IV0Ew&sns=em

2012/02/01

あれは誰?

今日のクロモスは、フランスの百貨店 Au Bon Marché のトレード・カードです。童謡『ラ・ポリシネル(La Polichinelle)』の歌詞が入っています。トレード・カードの大きさはまちまちですが、7 X 11cm 未満のものが多いです。これは一回り大きい 8. 5 X 12.5cm。とても細かいところまで綺麗に印刷されていて、瞼の陰影まで表現されています。

上品に設えた野外舞台におどけたダンスをしているポリシネルがいます。何度かご紹介しているように、ポリシネルはイタリアの古典喜劇のキャラクター、プルチネッラのことで道化です。先日の操り人形のポリシネルとは対照的な道化ぶり!

舞台には何故か猫が一匹いて、冷ややかにポリシネルを見つめています。右側のスタンドのぶら下がった輪は何なのでしょうか?もしかすると、古典劇のレパートリーのエピソードに関係があるのかも知れませんが、意味は分かりません。またもや、宿題...(笑)。これは鎖らしいのですが、とても細かい輪が繋がっているんですよ、写真では確認し難いかも知れません。


観客は子どもたちばかりで、思わず笑みが溢れている子がいれば、冷ややかに見つめている子、大笑いしている子もいますね。大笑いしているのが分かるように、カードを見ている私たちに顔を向けています。これは着目すべき点です。

左側には細い樹とベンチがあり、ポリシネルは野外舞台で演じていることが分かります。そして舞台の手前には観客がいて、その外側にはカードを見つめる私たちがいて...という、入れ子のような構造が出来上がっているんです。核に当たる部分は舞台ですから、小さな宇宙の中心でポリシネルがおどけているわけです。

それにしても、古びた真鍮のような金彩の飾りが付いた薄緑の舞台、金色の房のある珊瑚色のカーテン(天鵞絨かな?)は素敵!子どもたちのいる空間の外枠も植物文様で飾られているので、入れ子の構造がよりはっきりするかのようです。

ポリシネルは道化らしい衣装で、色違いの帽子が歌詞を記した紙の下を抑えるようにおいてあります。ラッパは小道具でしょうが、童謡をテーマにしているのでシンボルのような印象を受けますね。

このイラストで感心したのが、ポリシネルの影です。煙のごとく消えそうですし、ポリシネルに合わせないで、勝手な動きをしそう。

歌詞を訳してみました(私のフランス語力は低いので参考程度に...)。「あれは誰?/ポリシネルだよ、お嬢さん/あれは誰?/ここにいるのはポリシネル/へんちくりんな格好で/怖がらせているけど/あなたに自作の歌を/聴かせたいんだってさ」

調べてみたら、三番までありました。まあ、たわいも無い歌詞なんですが...(笑)。