子供のころ見た『魔法使いサリー』の主人公が、樋口一葉の『たけくらべ』に心酔して、物語の中に入ってしまうエピソードがありました。当時、私はこのエピソードに入れ込んでしまい、子供版の『たけくらべ』を読み、私もこの中に入れば、サリーと会えて生涯の友になれるのではないかと信じていました。
嬉しきは月の夜の客人、つねは疎々しくなどある人の心安げに訪ひ寄りたる、男にても嬉しきを、まして女の友にさる人あらば如何ばかり嬉しからん、みづから出るに難からば文にてもおこせかし、歌よみがましきは憎きものなれどもかゝる夜の一言には身にしみて思ふ友とも成りぬべし。(樋口一葉『月の夜』)